著者は東京大学大学院准教授。
屈指の若手脳科学者が、
母校である静岡県立藤枝東高の生徒に語った講義録です。

単純な脳、複雑な「私」単純な脳、複雑な「私」
(2009/05/08)
池谷裕二

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自己啓発に科学の風味をまぶしただけの、
昨今の脳ブーム本とは一線を画しています。
難解な最新の科学的知見を、レベルを落とさず、
高校生にも分かるやり方で提示する手腕には惚れぼれしました。

「子どもの手を見れば理系か文系かがわかる?」
「お金をたくさんもらうと仕事は楽しくなくなる?」
「脳を刺激すればいつでも幽体離脱ができる?」
・・・答えは本書を読んでね。

脳の気持ちになってみると、
頭蓋骨に囲まれた真っ暗な中の孤独な存在。
情報は、身体を通して入ってくる。
「人間は主観経験の原因や根拠を、
無意識のうちにいつも探索している」(p159)生きものだから、
脳は、行動(身体表現)を通じて自分を理解し、心の内面を脚色する。
「おそらく脳は、自分よりも体のほうが真実をわかっていることをきちんと認識していて、
自分の感情や状況の判断に「体」の反応を参考にしている」(p143)

脳の機能からすれば、
人間がもっているのは「自由意思」じゃなくて、
しないことにする「自由否定」しかないんだという。

直感やセンスは、
体の動かし方を記憶する基底核で作られる。
勘というものは体を通した学習や訓練で身につくということ。
しかも、基底核は大人になってからも成長を続ける部位だそう。
「人生経験は直観力を育む」と池谷氏は言います。

また、脳にとって、「正しい」「間違い」という基準はなく、
その環境に長く暮らしてきて、
その世界のルールにどれほど深く順応しているかが重要になる。
自分が精神的に安定するから「好き」だと感じるものを、
脳は「正しい」と判断しやすいということ。

脳のゆらぎ(ノイズ)が、実は邪魔者ではなくて、
情報の検出・収集・利用に役にたっているということ。
均質な集団は域値以下では全く見えなくなってしまうけれど、
ノイズがあれば検出できる。
集団の効率も進歩も、ノイズがひっぱってくる。

これ、学校や会社のような組織にも言えるかも。
トップダウンが徹底し、合理化の進んだ組織より、
現場が有機的に判断し、
ダイバーシティが浸透しているほうが足腰が強い。
トップは現場でおきたことを経営方針に反映させ、
ゆたかな経験から勘をあやまたずに、
ゴーとストップを発動する。
面白いでしょう。
社会のモデルが、ヒトの身体のなかにぜんぶある。

わからなかったことに解が与えられた興奮って、
読書の醍醐味ですよね。

科学者が魅力的なのは、
実は宗教とか、哲学とか、芸術とかの近くににいて、
研究が進めば進むほど謙虚になっていく姿が美しいからだと思いました。




2009.09.21 / Top↑
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